【書評】「マスコミ偽善者列伝」痛快一刀両断集

「言いたいことも言えないこんな世の中で」

こんなタイトルをつけながらドラマ版GTOがもう20年も前の出来事であるということに驚きを隠せないらららベイです。

私と同年代の方であればおそらくはGTO主題歌「poison」のこのフレーズはすぐにピンとくるのではないでしょうか。

主人公鬼塚の年齢を優に超えてしまったことを考えると非常に憂鬱な今日この頃。笑

 

脱線しましたが、謙虚さを美徳とする日本社会においてこのフレーズは、現在に至るまで多くの方に共感を覚えさせるのではないかと思います。

かく言う筆者も引っ込み思案のため人前ではっきりと物事を言えない始末。

ただ一方で歯に衣着せぬ物言いを聞くと、憧れに近いような感情を抱くこともしばしばあります。

 

「マスコミ偽善者列伝」ー信念を感じさせる痛快批評

 

マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々

マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々

 

 そんな私が今回思わず手にとったのがこちらの「マスコミ偽善者列伝(著者:加地伸行)でした。

そのタイトル通り、本書はマスコミでよく見る政治家や経済評論家等、著名人を対象に長く中国哲学史を専門とされていた著者の加地伸行大阪大学名誉教授が「教育」「憲法」等のテーマに基づき批評している。

その様は正に痛快」の一言です。

 

 主だった批評の対象が政治家やマスコミ関係者になるので、必然的に内容に政治的な要素が多分に含まれる点はご注意いただきたいです。

また、長くアカデミックの世界で論文等書かれていたからか、文体や言い回しなどは昔ながらの印象があり、若干読みづらく感じる部分もありましたが、論じるに当たり常に断言するその表現は本書最大の魅力でもあると思います。

 

個人的に特に共感したのが、平成25年の特定秘密保護法案反対デモに対してのこの一節。

「絶対反対」と称した以上、法案成立後も反対運動を続けるべきではないのか。国会周辺において絶対反対のデモをずっと続けるとか。・・・中略・・ ・法案が成立したからデモはやめて終わりでは情けない。ーマスコミ偽善者列伝より抜粋

 正直不勉強につき特定秘密保護法案について概要は知っていてもその是非について論じるほどの知識は筆者にはありません。

しかし、この「反対し続けるべき」という主張は納得できますし、こうして断言する論調には説得力を感じざるを得ません。

 

こうした徹底した批評もさることながら、その主張を組み立てる根拠も非常に勉強になります。

特に「憲法」や「国民国家のあり方」などは過去の歴史に基づき論じられており、こうした分野に対しての理解が自分にはまだまだ足りていないと感じられ非常に学びの多い書籍となりました。

 

「主張すること、批評すること」の大切さ

本書の魅力について述べてきましたが、もちろん全ての内容に諸手を上げて賛同するという訳ではありません。

中には「どうかな?」と思うような主張もありましたし、おそらく読まれる方によって気になる点は人それぞれではないかと思います。

 

例えばアメリカの国力について論じる一節。

アメリカは、世界第一位の工業国であると同時に、世界第一位の農業国であり、最近ではそれに加えて、エネルギー源を自国地下から得て自給自足が可能。・・・中略・・・これが世界最強国の大要素となっているのである。 ーマスコミ偽善者列伝より抜粋

 確かにアメリカと比較して人口増が与える影響力から、中国などでは食料生産が今後の大きなリスク要因として懸念されているのは事実です。

ただし、アメリカ自身も食料自給率が高いとは言え、世界最大の食料輸入国であるという事実も見過ごせません。

もちろん、諸先進国の中で食料生産力が高い国であることは間違いありませんが、やはりアメリカの強さはそれに加えて人口や経済力、さらに世界で最も流通している米ドルという通貨基盤(仮想通貨の出現により変化が起きる可能性がありますが)といった要素が複合的に重なって今の地位にあるものと考えます。

 

このように、各々の意見に対して色んなことを読みながら考えられるのも本書の魅力だと思います。

そしてまた、批評される人々も様々な意見を発信しているからこそ、こうした気付きを得られるものなのだと感じさせられます。

老生に叩かれたと泣き言を垂れるな。無視されるよりはましと思え。ーマスコミ偽善者列伝より抜粋 

著者もこのように冒頭で述べており、「無視」されてなにも議論が起きないよりは「批評」されて議論として発展させることの大切さを痛感させられます。

 

非常に独特で、ある種「クセ」のように感じられる著者の主張、出る杭は打たれる様な側面が強い現代であるからこそ面白く読めてしまうのではないでしょうか。

それではまたの日に。